2003-06-01から1ヶ月間の記事一覧

陽炎の記9

ラウマの精鋭は圧倒的人数からくる少しの油断から、動きを雑にした。 その判断のミスは当初些細なものにすぎなかったが、 放っておく間にも見る見るうちに混乱が広がった。 河を渡った者たちは、戦況が有利な時ほど働く己の保身を優先させる過ちを犯し、 後…

Mr.スプリンクラー氏からの掌編にはまだ続きがあるのだが どうしようか迷っているのが現状だ。 この日記形式のCGIというのは、 こういった形式の連載には、あまりにも向いていない気がするからだ。 なので、また別のフリースペースで連載された方がいいと思…

陽炎の記 8

黒い服を身に纏った影がレカンの橋を横切った。 何人ものラウマ兵は、その影がこの世で見た最後のものとなった。 回避行動と突撃掃射が一体となった動きは、現実のものとは思えなかった。 この日が、ラウマに真希・ゴトウの驚異的な身体能力を知らしめた最初…

陽炎の記 7

最初の一発目でひとみの肩は抜けかけた。 そういえば「脱臼した」って言ってたっけ。 その痛みを思い出しながら顔をゆがめる圭のことを思い出して、 ひとみはしっかりと射撃体勢を整えた。 痛い。 人を撃っている。人を守るために人を撃っている。 受け止め…

陽炎の記 6

「来いっ!」 裕子の恐ろしい形相を目にしたひとみは、 事態がただならぬ状況になっていることを本能的に悟った。 いくら訓練しても慣れなかったアサルトライフルを探しに圭の工房に走り込むと オイルの匂いにむせ返りながら自分に与えられたFA-MASを探した…

陽炎の記 5

午前のわずかな時間にしか吹かない風が巻き起こって砂を舞い上げる。 この地は緑に恵まれた地だったが、 多くの場所が爆撃の後遺症で癒されない傷口を開けたままになっていた。 そこから黄色く乾燥した砂があふれ、砂漠のような砂嵐がよく起きた。 いくら雨…

Mr.スプリンクラー氏からメールがきて、 それを開けて読んだぼくは、少々面食らってしまった。 彼は自分の掌編の感想を事細かに書いているのだ。 ただよくよく読んでみると、 小さなポイントの字で校正が添えられている。 つまり、ぼくに「直してくれ」と言…

陽炎の記 4

ある日の夕方、泉の西にある山の上に砂埃が巻き上がった。 それは大抵の場合、悪い予兆だった。ミドルレンジの人々が予想したとおり、 次の日の夜明け空に爆音が轟き、 無数のパラシュートが薄い色の空に模様を作った。「来たか」 石で組まれた柱に布を張っ…

陽炎の記 3

初めて実弾を込めた銃を渡されたとき、ひとみは裕子の顔を不思議そうに見つめた。 裕子の瞳は、この地に降り注ぐ強い日差しと時折起こる砂嵐のために、 緑白に焼けた虹彩に縁取られていた。 幼心にひとみは裕子の真剣な表情を綺麗だと思った。 「ええか、こ…

未だにMr.スプリンクラー氏から連絡が来る様子もなく、 彼がここにアクセスしているのかどうかさえ、ぼくにはわからない。 この世界で「陽炎の記」の先行きを知っているのは彼だけだ。 ぼくには送られてきた部分しか分からないし、 この作品は、彼がぼくの好…

陽炎の記2

パンゲア大陸の東端にミドルレンジと呼ばれる地域がある。 ひとみが生まれたのは、世界が疲れきって崩壊する直前だった。 ミドルレンジは国とも呼べない小さな地域だった。 気候は温暖で、適量の降雨があり、豊かな四季があった。 人々は決まった家を持たず…

こうしてぼくは Mr.スプリンクラー氏の掌編の冒頭を載せたのだが、 今日まで彼から反応が来ることはなかった。 それどころか、彼自身が登録していたはずのはてなダイアリーも消えており、 これはあきらかにこの舞台での発表を容認する行為だとも思える。 た…

陽炎の記 1

美しい死なんてない。 頭のなかをふと言葉がよぎった。 誰が言った言葉だったか、記憶は既に細かい欠片になって、 今はもう正確に思い出すこともできない。 長い時間がたった。 あの頃、一緒に過ごした仲間たち。 秋の太陽が屋上に伏せている身体を燦と照ら…

ここは。

ぼくは、ある日あるモーヲタからひとつの掌編を受け取りました。 その人はぼくが運営しているサイトを見て、 感性が似ていると思ったということです。 彼はサイトを持たず、どこにも書き込みをせず、 ただそれを送りつけてきました。 分かっていることは、 …