遠き山に日は落ちて
ふとボーイスカウトで歌ったこの歌を思い出し、
その記憶は夕暮れ時のささやかな焚き火の光景と結びつき、
あの頃の希望と不安に挟まれて歩いていた日々が甦ってくる。
あの頃の自分は、愚かな行為をしたり、
間違えたり躓いたりしながらも、
毎日を喜びと驚きと盲目的な自己肯定で縁取っていた。
山が山とも思えないほど。
谷が谷とも思えないほど。
あの頃の僕は一日の中で夕暮れがいちばん好きだった。
その時間になると、僕の身体と宵闇の境界が消えて、
僕のいのちが流れ出し、
世界の空気が流れ込み、
目を閉じれば、僕は世界だった。
いま 僕は夕暮れ時を耐えることが出来ない。
目を閉じても、僕は世界などではない。
視界を失ったひとりの男がいる。
遠き山に日は落ちて
星は空を散りばめぬ